2013年度以前の調査・研究

新しい時代の都市税政に関する調査研究2004

 

新しい時代の都市税政に関する調査研究

研究のテーマ

「固定資産税の課題と都市自治体における資産課税を考える」

1.趣旨・目的

現在、都市自治体は、少子・高齢化対策、環境問題への対応などの重要施策に対処するための財政需要が増嵩する一方、引き続く景気の低迷により大幅な税収の不足にみまわれている。このため、都市自治体が行政サービスの供給主体として大きな役割を果たし、今後の地方分権の更なる推進を図るには、歳入面において地方税を中心とした歳入体系を構築する必要がある。
こうした中で都市自治体の税収の大宗を占める固定資産税を中心とした資産課税について様々な施策の取り組みを行い、税収の確保と併せて地域経済の活性化や住民サービスの向上を図ろうとする都市自治体が現れてきている。
そこで当センターでは、都市自治体の資産課税のあり方を理論的に検討し、固定資産税の不均一課税を活用した企業誘致といった地域経済の活性化など、「固定資産税の課題と都市自治体における資産課税を考える」をテーマとし、海外の事例や日本の都市自治体の事例報告を踏まえながら調査研究を行うこととした。

2.調査研究項目

調査研究にあたっては、当センター内に「新時代の都市税財政に関する研究会」(委員長宇田川璋仁 千葉商科大学客員教授)を設置し、その成果として『新時代の都市税財政 ~都市自治体における資産課税の充実・確保~』と題する報告書を取りまとめた。

3.調査研究の概要・成果

調査研究は、下記の4つの論点事項から検討・討議を行った。
第1の論点事項として、現在の固定資産税の課題を整理、検討するなど、都市自治体の資産課税のあり方について理論的な調査研究を行う。第2の論点事項として、企業誘致や中心市街地の活性化のために、固定資産税の軽減を行っている都市自治体がみられ、その効果について事例を通じた調査研究を行う。第3の論点事項として、都市自治体において固定資産税をはじめとした市税の徴収強化策が取られているが、滞納者の氏名公表などの方法を採る都市自治体もあり、その効果や現状などについて、事例を通じた調査研究を行う。第4の論点事項として、都市自治体が必要とする税収総額から税率を算出する方式、有価証券のような無形資産に課税する方式など、海外の事例を参考にして、資産課税によって税収を確保し、都市自治体の歳入基盤の安定化を図る方策を検討する。
以上の検討・討議により取りまとめられた報告書は、2部10章から構成されている。
(1)固定資産税の性質と税収確保への取組
第1章では、関西学院大学経済学部教授の林宜嗣氏より、行政サービスに対する応益課税としての固定資産税の役割・課題についての報告で、行政サービスの財源として、固定資産税が応益課税を実現するにふさわしい税とするなら、現実にそれが応益課税として機能しているのか検証した。
第2章では、辻弘昭専門委員(横浜市財政局主税部長)が、施策誘導手段としての不均一課税について、横浜市での取り組みを報告した。横浜市税財政制度懇話会での企業誘致施策としての税制活用による検討内容、「横浜市企業立地等促進特定地域における支援措置に関する条例」の概要や制定に至るまでの経過や視点、今後の展望について説明した。
第3章では、宮崎清専門委員(小田原市総務部長)から、「小田原市市税滞納に対する特別措置に関する条例」の制定にいたる市税徴収制度懇話会などでの議論や条例の概要、制定後の現状・効果・課題について報告があり、氏名公表や行政サービスの制限といった特別措置の本来の目的とその副次的効果などについて述べた。
第4章では、沼田芳明専門委員(横須賀市財政部長)が、横須賀市での産業と税収についての経過と現状を踏まえ、横須賀リサーチパークといった指定産業地域活性化の必要性や企業等立地促進条例とその奨励措置としての不均一課税の概要、制定後の税収の推移、今後の課題などについて報告した。
第5章では、福山市北部支所長(前納税課長)の小野乃史氏より、福山市における差押・公売処分などの市税の滞納整理状況、行政サービスの制限や競争入札指名資格審査の厳格化などの市全体での取り組み、徴収現場での課題や解決策の考察などを報告した。
(2)諸外国の資産税制度
第6章では、中央大学経済学部教授の篠原正博氏により、フランスの地方資産課税の課税標準の概念や歴史的経緯により生じる課題の整理、またフランス以外の諸外国の資産課税についての議論から、わが国の固定資産税の望ましい課税標準について考察を行った。
第7章では、名古屋市立大学大学院経済学研究科教授の前田高志氏から、アメリカの地方レベルでの基幹税である財産税の概要やその課税状況、仕組、問題点などについて説明があり、事例紹介としてカリフォルニア州での現況と課題を指摘した。
第8章では、和光大学経済経営学部助教授の半谷俊彦氏から、応益原則に基づく物税とされるドイツ不動産税の資産評価の陳腐化による応益性と税収力の低下の問題と、抜本的な改革の論点整理・検討により、都市自治体での資産課税のあり方を示唆した。
第9章では、久留米大学経済学部教授の世利洋介氏より、分権化されたスイスの税制の特徴を明らかにし、さらにスイスの州政府に当たるカントンや市町村での資産課税の位置付けや、自治体に課税権が保証されていることに伴う問題点について検討した。
第10章では、静岡県立大学経営情報学部教授の川瀬光義氏から、韓国の総合土地税制の導入に至るまでの沿革と総合土地税の特徴や課税の実態、韓国内での評価について紹介いただき、さらに2005年度から導入される新税について言及した。

4.研究の体制(都市税財政研究会)

委員長 宇田川 璋仁 千葉商科大学客員教授
副委員長 黒川 和美 法政大学経済学部教授
西野 万里 明治大学商学部教授
委員 井堀 利宏 東京大学大学院経済学研究科教授
井川 博 政策研究大学院大学教授
大村 達弥 慶應義塾大学経済学部教授
加藤 三郎 東京大学名誉教授
金井 利之 東京大学大学院法学政治学研究科助教授
金子 勝 慶應義塾大学経済学部教授
工藤 裕子 早稲田大学教育学部助教授
高山 憲之 一橋大学経済研究所教授
竹内 一樹 長野経済短期大学学長
田中 一行 明海大学不動産学部教授
田村 紀之 二松学舎大学国際政治経済学部教授
辻 琢也 政策研究大学院大学助教授
能勢 邦之 米国ベラー大学客員教授
野呂 昭朗 東邦学園大学経営学部教授
林 正寿 早稲田大学社会科学部教授
原田 博夫 専修大学経済学部教授
肥後 和夫 成蹊大学・明海大学名誉教授
廣瀬 克哉 法政大学法学部教授
深谷 昌弘 慶應義塾大学総合政策学部教授
藤田 幸雄 自治大学校・早稲田大学政治経済学部講師
星野 泉 明治大学政治経済学部助教授
水野 忠恒 一橋大学大学院法学研究科教授
武藤 博己 法政大学法学部教授
望月 正光 関東学院大学経済学部教授
横田 信武 早稲田大学商学部教授
横山 彰 中央大学総合政策学部教授
吉田 浩 東北大学大学院経済学研究科助教授
瀧野 欣彌 総務省自治財政局長
板倉 敏和 総務省自治税務局長
岡本 保 総務省大臣官房審議官
小室 裕一 総務省大臣官房審議官
原田 正司 総務省大臣官房審議官
椎川 忍 総務省自治財政局財政課長
岡崎 浩巳 総務省自治税政局企画課長
米田 耕一郎 総務省自治税務局固定資産税課長
専門委員 池田 丈三 八王子市税務部長
桐藤 和行 さいたま市財政局税務部長
辻 弘昭 横浜市財政局主税部長
沼田 芳明 横須賀市財政部長
宮崎 清 小田原市総務部長

(敬称略、委員は50音順、2004年7月現在)

 

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