2013年度以前の調査・研究

自治体職員の人事評価制度に関する調査研究2005

 

自治体職員の人事評価制度に関する調査研究

1.趣旨・目的

現在、自治体に対する住民のニーズは、高度・多様化している。自治体は、この住民ニーズを踏まえた行政サービスを適切かつ効率的に提供すると同時に、これを担う人材の育成が急務である。自治体は、職員の能力開発を行い、能力主義・実績主義を主体とする人事管理によって適材適所の配置を行わなければならない。もっとも、能力開発に当たっては職員に自身の強みと弱みを自覚させること、適材適所の配置に当たっては、職員1人ひとりの能力の状況を把握することが不可欠である。これらの役割を果たす手法として、人事評価制度が多くの自治体で実施され、または実施の検討がなされている。 
しかし、人事評価制度については、その公正性や公平性の確保、処遇への適正な反映など解決すべき課題は山積している。そこで、本調査研究では、これらの課題解決の端緒を探り、今後の人事評価制度のあり方について検討を行った。

2.調査研究の方法

調査研究は、主として先進的な人事評価制度を実施している自治体にヒアリング調査を行い、また、今後の人事評価制度を実施するに当たっての留意事項などについて検討した。 
調査研究の成果として、平成18年3月に報告書『都市自治体の新しい人事評価制度』を発刊した。報告書には調査研究の内容に加えて、人事評価制度のあり方や民間企業と自治体の人事評価制度の比較などについて、有識者のご寄稿を賜った。

3.調査研究の概要

(1)第1部 人事評価制度についての要点 
第1章は、「人事評価制度を自治体が実施するに当たって求められるもの」をテーマとして、大阪市立大学法学部長の稲継裕昭教授に論じていただいた。人事評価には「育成の論理」、「選抜の論理」の2つの側面がある。人事評価の公平性・客観性を確保する上で透明性の確保は、いずれの点においても不可欠である。評価結果の活用方法は、どちらの側面に重点を置くかで異なるが人事評価の最終目的は同じであり、この目的を常に念頭に置いた制度構築が必要であることなどについて述べられている。 
第2章は、「民間企業の人事評価制度の現状と自治体の人事評価制度との比較」をテーマに、財団法人社会経済生産性本部公共部門人事支援センターの平井久禎主任研究員に論じていただいた。人事評価の考え方は、民間企業、自治体を問わず上司が部下への期待を示し、その達成度を評価する点で同じである。人事評価制度は、何が期待されているのかを職員に対して明白に示すものでなければならないと論じられている。
第3章は、「人事評価制度を通した人事政策のあり方」として、財団法人日本都市センター研究室の木下勝秀研究員が執筆した。自治体へのヒアリング調査の結果などから、職員の納得性向上や人事評価制度の定着化の取組などについて取りまとめた。人事評価制度には、人事評価に止まらず職員間の連携や組織と職員の目標を連鎖させる役割を考慮すること、また、人事政策には、組織内部以外に住民を視野に入れた取組が必要であるとしている。

(2)第2部 自治体の人事評価制度の事例 
第2部では厚木市、寝屋川市、広島市、多治見市、岸和田市、宇都宮市の6市における人事評価制 度に関するヒアリング調査の結果を各章ごとに分けて紹介している。 
第1章 厚木市は、「新たな人事評価制度」の構築や改訂を検討する場に、職員の代表を加えている。これには評価される側の意見を踏まえた制度構築を行い、職員の制度実施への理解を得られ易くする狙いがある。新たな人事評価制度は、職員が人事評価に取組み易いもの、また、評価の反映方法などに独自性のあるものとなっている。 
第2章 寝屋川市は、人事評価の公平性・公正性を重視して、部長以上の職員には上司や部下の外、同格者による評価や行財政改革への取組姿勢などを評価する自治経営評価からなる「360度評価」を実施している。360度評価の実施により、同格者が互いに評価を行って部署を越えた横断的な意思疎通を深め、連携の下地づくりとなることを期待している。 
第3章 広島市は、上司と部下との間のコミュニケーションの促進を重視し、そのツールとして「新しい人事評価制度」を実施している。人事評価の過程において、節目ごとに実施する面談を部下主体となるように心がけ、また、評価結果を全面的に開示するなど、上司と部下の信頼性と人事評価に対する納得性を向上させるための取組を実施している。 
第4章 多治見市は、年度ごとに総合計画など市の目標を取りまとめた「施策マトリックス」を作成する。これは、市の目標を各部署、各職員の達成目標に連鎖させ、その結果を評価するマネジメントサイクルの要となる。また、勤務成績が特に不振な職員には昇給延伸や成績降任を行う基準を明確化している。これら「目標管理による勤務評定制度」は、その運用状況を公表し、透明性が高いものとなっている。 
第5章 岸和田市は、簡易コンピテンシーを用いた能力評価、評価者が被評価者の行動のすべてを把握できないことを前提とした評価方法などを行うとする「人事考課制度」を実施する。岸和田市の人事政策の中心課題は、行政運営のコア(核)となる人材を育成することであり、この存在が組織を上手く機能させ、職員全体の意識変化を促すとしている。 
第6章 宇都宮市は、全国に先駆けて実施した「コンピテンシー評価」、また「目標管理による業績評価」をより実情に合わせて再構築を行った。再構築により、制度として人事評価をより使い易くするとともに、被評価者を含めた研修を行うなど、職員全体に人事評価制度への関心と理解をより深め、人事評価制度の定着を深める取組を実施している。

 

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