2013年度以前の調査・研究

都市自治体の訴訟法務に関する調査研究2006

都市自治体の訴訟法務に関する調査研究

1.趣旨・目的

 情報公開制度の浸透、平成12年の地方分権改革、平成16年の司法制度改革などを経て、自治体をとりまく法的・政治的環境は大きく変化した。まず、情報公開制度の浸透により自治体行政に関する文書は原則的に公開されることとなり、住民や事業者などによる挙証が相当程度容易になった。また、分権改革により自治体が地域社会における政策形成主体として行政処分や自主立法を行う機会は増大する一方、司法制度改革により住民や事業者が自治体を提訴するためのハードルは低くなってきている。さらに、近年では、国や他の自治体との間で、権限などをめぐる法的係争が発生することも稀ではなくなってきている。
 このような一連の状況に鑑みれば、今後、自治体に関する訴訟が増加することはあっても、減少することはおよそ考えにくいといえよう。したがって、「法律による行政の原理」を実現する観点から、自治体はこれらの訴訟に適切に対応するための組織体制を整備し、訴訟対応機能・違法行為予防機能を拡充することが求められる。
 そこで、本調査研究では、自治体の訟務管理や現行の訴訟制度の問題点などについて検討を行った。

2.調査研究の方法

 調査研究に当たって、当センターに学識経験などからなる「訴訟法務研究会」(座長 宇賀克也 東京大学大学院法学政治学研究科教授)を設置し、自治体に係る訴訟制度およびその運用上の問題などについて、研究会での議論により調査研究を進めた。また、自治体及び一部事務組合の訴訟担当者にヒアリング調査を行い、自治体訴訟法務の現状と課題を調査した。 
 本調査研究の成果物として、平成19年3月に『自治体訴訟法務の現状と課題』を発刊した。

3.調査研究の概要・成果

(1)総論 
・自治体訴訟法務とは何か 
 自治体訴訟法務とは、一般的に、訴訟手続・執行手続・和解交渉など、訴訟が生じた場合に対応する活動を指す。しかし、自治体はこれに加えて、違法な事務執行の予防、事件・事故の再発防止など、法的紛争に関する事前対応・事後対応を適切に行う必要がある。

・なぜ、いま自治体訴訟法務か 
 自治体は現在、自治体訴訟の量的変化と質的変化に対応することが求められている。量的変化とは、自治体訴訟の件数がここ10年ほどで約1.7倍に増加していることを指す。質的変化とは、1990年代半ば頃から進展した自治体訴訟をめぐる法的・政治的環境の変化を意味する。具体的には、①地方分権改革、②司法制度改革、③情報公開制度の浸透と「住民自治の争訟化」である。 

・新しい自治体訴訟法務の視点 
 自治体訴訟をめぐる近年の質的・量的な変化に自治体が適切に対応するためには、訴訟法務に関する自治体職員の意識改革が何よりも重要である。第1に、「訴訟は非日常的な業務で、弁護士の仕事である」という意識を変え、職員自身が当事者意識をもって対応すること、第2に、訴訟は事後処理であるという意識を変え、事前対応を改善すること、第3に、勝訴することだけを目指すという意識を変え、裁判過程を通じて行政の説明責任の確保を図ることである。 

(2)訴訟法務マネジメント 
・訴訟法務のマネジメント・サイクル 
  訴訟法務は、Plan(計画)、Do(実行)、See(評価)というマネジメント・サイクルの観点からすると、 ①訴訟の検討および②訴訟の方針決定がPlanに、③裁判手続(法廷活動)がDoに、④訴訟の評価がSeeにそれぞれ該当する。

・庁内の訟務体制 
 自治体は、訴訟対応機能の充実を図る観点から、法的問題に関する照会ルートの整備、原課からの適切な情報収集、OJTを通じた能力開発、自治体間の訴訟情報の共有などを図る必要がある。

・弁護士 
 自治体は、訴訟を弁護士に丸投げするのではなく、職員と弁護士が共同でこれに当たることが重要である。また、行政訴訟に明るい弁護士、行政側の実情を理解してくれる弁護士などを確保することも求められる。

・首長 
 首長は、政策判断に当たっては、その必要性や財源のみならず、法的リスクについても十分に検討する必要がある。自治体が訴えの提起、和解、斡旋、調停および仲裁を行うには、議決が必要であるから、議会への適切な説明が求められる。

(3)訴訟類型ごとの現状と課題 
 自治体が被告となる訴訟として、①抗告訴訟(情報公開・個人情報保護訴訟を除く)、②情報公開・個人情報保護訴訟、③住民訴訟、④自治体に対する損害賠償請求訴訟について、現状と課題を検討した。また、自治体が原告となる訴訟として、①国および他の自治体との争訟、②自治体が原告となる民事訴訟の現状と課題を検討した。

4.調査研究の体制(訴訟法務研究会)

座 長 宇賀 克也 東京大学大学院法学政治学研究科教授
 委 員  石津 廣司 弁護士
 〃  磯崎 初仁 中央大学法学部教授
 〃  宇那木正寛 岡山市総務局総務法制課政策法務室主査
 〃  江原 勲 自治体法務研究所代表・市町村アカデミー客員教授
生沼 裕 高崎経済大学地域政策学部教授
 〃  大塚 康男 市川市教育委員会教育次長
 〃  金井 利之

東京大学大学院法学政治学研究科教授

中川 丈久 神戸大学大学院法学研究科教授
中山 雅仁 横浜市行政運営調整局部次長(総務部法制課長)
 〃  山本 和彦 一橋大学大学院法学研究科教授

(敬称略、委員は50音順、所属役職等は2007年1月現在)

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