2013年度以前の調査・研究

諸外国の基礎自治体に関する調査研究2004

 

諸外国の基礎自治体に関する調査研究

1.調査研究の趣旨・目的

近年、日本においては、地方分権改革や市町村合併が進行中である。また、第28次地方制度調査会では、道州制や大都市制度が議論されるなど、基礎自治体である市町村の姿や市町村を取り巻く状況は大きく変わろうとしている。このような中で、今後、基礎自治体とは何か、基礎自治体である市町村の組織および権能はどうあるべきかが問われてくることが想定される。そこで、今後の日本における基礎自治体のあり方を検討する上での参考とするために、諸外国の基礎自治体の制度や実態について、日本との比較を念頭におきつつ、調査研究を実施した。

2.調査研究の内容

調査研究に当たって、当センターに学識経験者等からなる「外国の基礎自治体研究会」(座長 寄本勝美:早稲田大学政治経済学部教授)を設置し、研究会での報告及び議論により調査研究を進めた。
報告書『基礎自治体の構造と再編-欧米の経験と日本の展望-』をとりまとめた。

3.調査研究の概要・成果

対象国は、アメリカ、ドイツ、イングランドおよびスウェーデンの4カ国とし、①外国における「基礎自治体」概念の整理、②基礎自治体の再編の状況とその影響、③基礎自治体の仕組みについて調査した。
「近接性」(住民にとって身近であること)、「総合性」(特定の事務に限らず様々な事務を行うこと)、「民主的正統性」(議事機関または執行機関の構成員または長が住民の直接選挙によって選ばれること)、「財政自主権」(自主財源、とりわけ課税権を有すること)、「規制行政権」(条例等に基づき、住民の権利を制限し義務を課することができること)を全て備えている自治体を基礎自治体とすると、調査対象の4カ国においてこれに相当する自治体は、アメリカではミュニシパリティ(municipality)、ドイツではゲマインデ(Gemeinde)、イングランドではディストリクト(district council)、スウェーデンではコミューン(kommun)ということになる。
(1)アメリカの基礎自治体
アメリカのミュニシパリティは住民の意思に基づき設置されるため、ある地域とない地域とがある。また、ミュニシパリティはホームルールを定めることにより、政治制度や権限を自ら定めることができるので、政治制度や権限はミュニシパリティごとに異なる。
(2)スウェーデンの基礎自治体
スウェーデンは、1960~70年代に公的社会サービスの供給能力のあるコミューンの建設を目的として合併が行われたが、その際の最低人口は8,000人とされ、現在の日本における「基礎自治体」に比べ、規模においても権限においても小さい。また、これは国による強制合併であったが、その後、現在までに12件の分割が行われた。強制的な合併ではうまくいかないケースが出てくることがうかがわれる。
(3)ドイツの基礎自治体
ドイツでは、1960~70年代に「新しい高度な行政需要に対応するための十分な執行能力を持った自治体」になるためにゲマインデの合併が進められた。しかし、合併は唯一の選択肢ではなく、他の方法を選択することもできた。現在のドイツの基礎自治体の類型は、合併して大規模な自治体となり、内部に都市内分権の仕組みを設けるという現在の日本と類似したもののほかに、大都市とその周辺自治体とが連携するもの、農村的地域において小規模自治体が連携するものとがある。
(4)イングランドの基礎自治体
イングランドの地方制度は、ロンドンでは二層制、ロンドンを除く大都市圏では一層制、地方圏では一層制と二層制が混在しており、非常に多様である。このうち、地方圏の二層制の地域において基礎自治体に相当するディストリクトは、平均人口が9万6千人とかなり規模が大きい。そこで、住民との間の距離を埋めるものとして、パリッシュを活用しようというディストリクトが現れている。パリッシュは教会の教区に起源を持ち、地方自治体としての法的地位を与えられている。住民が希望すれば、新しく設立することもできる。なお、効率的な行政運営の観点から、全国的に一層制のユニタリーを導入しようという試みが行われてきたが、各自治体の選択に任せた結果、ユニタリーの導入は一部地域にとどまっている。これは、国が一層制を主導したスコットランドやウェールズにおいては全域的に一層制となっていることと対照的である。
(5)諸外国の基礎自治体から何を学ぶか
近年、日本では、「総合的な行政主体」としての基礎自治体という考え方が打ち出されている。これは、総合的な行政を単独で行うものと画一的に考えられているようである。  しかし、全ての基礎自治体が画一的に高度な行政サービスを単独で提供することができなくてはいけないのであろうか。諸外国の基礎自治体を見ると、基礎自治体の規模、制度、権能等は国ごとに異なるのみならず、国内でも多様であることが珍しくない。そして、一律にしようという試みがなされても、成功させることは難しいようである。
住民が求める行政サービスは、地域の実情によって様々に異なるものであり、中には、小規模だからこそ効率的、効果的に提供できる行政サービスもある。また、効率的、効果的に行政サービスを提供するために、現行法において事務の共同処理のシステムが設けられている。外国の基礎自治体の多様性を参考として、日本の基礎自治体もそれぞれにふさわしいあり方や権能、連携方策等を工夫することが重要であろう。

4.調査研究の体制(外国の基礎自治体研究会)

委 員 長 寄本 勝美 早稲田大学政治経済学部教授
委 員 穴見 明 大東文化大学法学部教授
小池 治 横浜国立大学大学院国際社会科学研究科教授
高島 進 財団法人全国市町村振興協会常務理事
名和田是彦 東京都立大学法学部教授

(敬称略、委員は50音順)

 

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